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川本嘉子 ブラームス室内楽 11年間ありがとう! [国内クラシックコンサートレビュー]

ついにこのときが来た、という感じである。なにごとにも終わりがある。東京・春・音楽祭の看板公演だったブラームス室内楽が、11年目の今年をもって終了である。

                                        

ほんとうにご苦労様、そしてブラームスの室内楽のことをいろいろ教えてくれてほんとうにありがとう!である。ひとつのテーマについて掘り下げていき、それを11年間も続ける、ということはなかなかないのではないか。

                     

自分もずっと最初の頃から聴いてきて、ブラームスの室内楽とは、ということでほんとうに勉強させてもらった。ブラームスの室内楽に対して、広く大きな外枠のイメージを抱くことを可能にさせてくれた。心から感謝いたします。そしてその労を心から労いたいと思います。

                          

その最終公演となった今日。凄かった~~~。(笑)とくに音!こんなにすごい音。。。やっぱり生演奏はスゴすぎる。音量が桁違いだ。この音量感はなかなか実演でないと無理だろう。そして弦の厚み、ハーモニー感、和声感のある重厚な響き、そしてもう毎度おなじみの圧倒的なD-Range。すべてにおいて桁違いのスケールだった。

                

弦楽四重奏だった訳だが、各々の4人が輝いていた。

ひとりひとりがスター的な存在で、とくに若手2人が素晴らしかった!

                         

この11年間を振り返ってみて思うのだが、川本嘉子さんはNHK大河ドラマの主役だったのではないか。

                      

NHK大河ドラマは1年間の長丁場である。その長丁場を視聴者に飽きさせずに乗り越えていくには、ある意味、ドラマ自体が群像劇的な要素を持ったほうがいいのではないか。

                                

その時期、その期間で、魅力的なキャラクターが光るサブの主役たちが登場して、話題をさらい番組を盛り上げる。そういうサブの主役がたくさん登場すればするほど結果として番組は盛り上がり、1年間という長丁場では成功するのではないか。

                 

オレが、オレが、という主役主導型だと1年間持たせるのは大変だろう?

              

そういう群像劇的スタイルのキャラクターの立たせ方が肝を握っていると思う。

                          

もちろん主役としてつねに中心軸をしっかり掴んだまま、そのときのサブの主役たちを縁の下の力持ちのように下から支えて暖かく見守る。そういうサブの主役たちがたくさん登場して、活躍すればするほど、結果としてそのドラマは大成功する。主役にはそういう大人の器量というのが必要なのではないか。

                           

そして終盤になって行くにつれて、どんどんドラマを締め上げていき、最後はきちんと主役として圧倒的な存在感を示して終了する。それが長丁場の主役の在り方なのではないか。

                

なんか、東京春祭のブラームス室内楽を11年間に渡って見てきて思うのは、そんな主役の在り方が川本嘉子さんの立ち位置だったような感じがする。

                               

11年間の間、昔は同じ釜の飯のサイトウキネン、水戸室などの小澤ブランドの仲間で占めることが多かったが、後半の近年はもう積極的に若手を登用し、いかに若手が話題をさらっていくか、そんな暖かく見守るそんな主役の立ち位置だったように思う。

                          

これって簡単に言うけど、結構大変なのではないでしょうか・・・。

11年間に渡り、毎年つねに新しいメンバーを立たせながら、自分はホストとしてずっとシリーズを支えていく、というのは大変な重責だったと思います。

                

ほんとうにご苦労様としかいいようがない。

なかなか誰にでもできることではないと思います。

                          

自分にとって、ブラームス室内楽は、N響ワーグナーと並ぶ東京・春・音楽祭の看板公演だった。東京春祭では、かならずこの2公演は必須である。それに興味のある公演が出てこれば、それをアドオンしていく。そんな手法である。

                          

ブラームス室内楽の存在を知ったのは、2015年の頃かな?ミューザ川崎のホール空間を設計なされたACTの小林洋子さんの自由が丘事務所でおこなっている室内楽に参加したときである。川本嘉子さんと三舩優子さんのデュオでヴィオラリサイタルだった。ブラームスのヴァイオリン・ソナタをヴィオラ版にした譜があって、それを演奏されていた。

                      

それに大層感動して、そして東京春祭でブラームス室内楽をやってます、という紹介で知った。ブラームス室内楽は2014年からだから、ちょうど2年目からずっと聴いてきたのである。(途中チョンボでスッポかしたこともありますが。。笑笑)

                       

その自由が丘事務所で川本さんとツーショットの写真も撮りましたよ。(笑)10年以上前だから、いま見返してみるとお互い若い!(笑)自分はとてもシャイな性格なので、アーティストとツーショットの写真を撮ることはまずない。というかお願いできない。

                   

いままでツーショットの写真があるのは、川本嘉子さんと小澤征爾さんだけである。

                            

自分のクラシックの鑑賞歴においても、たとえば、ブラームスの室内楽だったら、それを11年間も聴き続けるという経験はなかった。自分にとっても初めての経験であった。

                 

長いようであっという間で短かったように思う。

                          

ヴィオラは、オーケストラの中では内声の役割で、縁の下の力持ちだ。

ところがヴィオラ奏者がソリストとしての立場になることが多くなった。

                   

日本クラシック界のヴィオラ奏者のレジェンドである今井信子さんの功績も大きい。

                             

ヴィオラの地位を上げたのが、まさに今井信子さんだ。欧米でソロ奏者、指導者として尊敬される存在で、小澤征爾さんらマエストロたちからの信頼もあつい。

                

まさに日本のクラシック界にとってヴィオラのレジェンドである。

                         

自分の世代だとタベア・ツィンマーマンが好きだったな~。自分はファンでした。大好きなヴィオリストでした。myrios classicから出る彼女のSACDは自分の愛聴盤でした。彼女もヴィオラという楽器を内声的役割ではなく主旋律として使って、ヴァイオリンの曲を、どんどんヴィオラで演奏するというようなチャレンジをしていった奏者で革命的だったと思う。

                         

ソリスト用のヴィオラ専用の曲というのは、当初はなかなかなかったが、タベア・ツィンマーマンのようないわゆるヴィオラ版という形で編曲して演奏するというアプローチが多かったように思う。

                 

今上天皇さまも学習院大在籍のときオケでヴィオラを弾いていらっしゃったのですよ!

                             

ヴィオラは何といってもその暖かい音色、人を恍惚とさせる周波数帯域のその音色がなんといっても魅力的だ。まさに懐の深い倍音である。

                      

この心地よさ、気持ちよさはチェロの音色にも通じるところがありますね。

                                                 

そんなヴィオラという楽器で、いまやソリスト級としての扱い、ヴィオラをひとつの独立した存在の楽器として扱う演奏家、まさにいまの時代のヴィオラの顔なのが、川本嘉子さんだ。

                                               

川本嘉子さんというと、自分にはずっと謎がある。それは音楽家仲間や裏方さんは、みんな彼女のことを、”いねこ”さん、”イネコ”さんと呼ぶことだ。

                                            

どうして「いねこ」さんなのか。

まったく想像つかない。

                                            

なんか、東京都下で女子高なのに、なぜか男子生徒までいるという奇抜な学校(笑)で、ヴァイオリンを習っていたときのこと。なんの拍子か、先生だか友人だかが、「嘉子」を「いねこ」と読む、と信じ込んだんだな。その方たちは嘉子さんのことを、それからというものの「いねこ、いねこ」と呼び続け、一向に直してくれようとはしなかった。そしていつのまにか、まわりの友人も学友もそれを面白がり、「いねこ~」やら「いねちゃん」と呼ぼれるようになったそうだ。

                                                   

この神話のルーツはたぶんそういうことらしい。

長年の謎がいまようやく解けた。

                               

                                           

川本さんのインタビューでこんなことを言っていて、自分はなかなか興味深く拝読した。

                                                         

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「私がバイオリンからビオラに転向した二十数年前、親は悲しくて泣いていた」。

                                      

ヴィオラの場合、ベートーヴェンの作品でも、しばらくは音にどんな意味があるのかわからなかったです。というのも、指揮者もメロディを弾くヴァイオリンなどにはきちんと指示をするのですが、ヴィオラをどうするかを考えていない人が多いからです。私は周りの息遣いや動作に合わせて引いていました。最近はヴィオラの内声としての意味が考えられるようになり、指揮者も上手く操作してくれる人が多いです。またオケのヴィオラ奏者も個性が多様化したように思います。

                           

ヴィオラ奏者はヴィルトゥオーゾというよりは音色のよさが求められます。私は前に出るのが苦手なので、ヴィオラの転向によって前に押し出されるのを回避できました。両親は始め理解を示しませんでしたが、ここまでくると転向してここまでやってきたことがえらいという風に変わってきました。わたしとしては楽しみながらやってきました。

                          

ロシア生まれの世界的ヴィオラ奏者、ユーリ・バシュメットが日本でリサイタルをした記事があり、ヴィオラでもソリストとして生きていけることを知り、衝撃を受けました。ベートーヴェンがそれまでの作曲家と違い、パトロンの庇護を受けずにフリーランスの音楽家として成功したのと同じくらいのイノベーションを感じ、興奮したことを覚えています。

                

プリムローズという天才の活躍後は、バシュメット、カシュカシアン、今井信子さんたちが世界を駆け巡り活躍していたので、ヴィオラの可能性はITで起業に挑むような心持ちでした。

                     

                 

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今日の公演の弦楽四重奏第3番の第2楽章だったかな?

                             

いままでヴァイオリンが主旋律で、ヴィオラが内声という役割が反転して、ヴィオラが主旋律を担い、ヴァイオリンが内声というスタイルでヴィオラが朗々とメロディを歌うというところがあって、これがめちゃくちゃカッコよかった!川本さん、最高にカッコいいと思いました。

                  

そんな世間が言うほど、ヴィオラは地味だとは思いませんけどね。

                 

11年目でついに最終章となったブラームス室内楽。

最後は弦楽四重奏だった。

               

                            

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ヴァイオリンに周防亮介、小川響子といういま最高に注目の若手を起用し、チェロ:向山佳絵子という長年の親友パートナー。

                

               

周防亮介、小川響子というホットな2人は最高に楽しみだった。

もうこういう機会でないと自分の場合、なかなか聴くチャンスがない。

                                   

小川響子は、先日のシューマン室内楽マラソンコンサートで堪能した。葵トリオ、そしてデュオと鑑賞したが、すごく目立っていてレベルが高くいい奏者だな~という印象だった。

               

自分が驚いたのは、弦楽四重奏第2番の第3楽章だったかな?自分の座席からはこのとき1stだった小川の姿を直視する感じなので、一心不乱に観ていた。とにかくすごい熱演で、激しいボーイングに、演奏に興を高じて、椅子から体を浮かすアクションを何度もするくらいの激しい演奏で、それも4人全員が同じテンションの激しさ。

                  

これは痺れました~~~。

                     

小川響子すごいよ~。オガキョ、凄い!

                           

彼女はほんとうにすごいヴァイオリニストだということが、この時点でしっかり自分の頭の中に刻み込まれました。やっぱり印象は最初が肝心。彼女に対しては、このイメージをずっと持ち続けることになるでしょう。

               

日本のクラシック界の未来は明るい。

                  

ヴァイオリンは、1stと2ndは、周防亮介、小川響子が交代で務めた。

                       

自分が最高に楽しみだったのが、周防亮介。ご活躍はずっと存じ上げていましたが、いつかは実演に接してみたい、とずっと思っていたので、念願かなって最高にうれしかったです。

                   

見た目、中性的で性別不詳なのですが(名前からすると男性なのかもですが、よくわからないです。)、それがかえって、ミステリアスな感じがして自分は昔から気になっていた存在でした。

                           

非常にスマートで、端正な奏法で、なんか外見のエレガントな感じとよく合っていて、カッコいいな、と思いました。男である自分から見ても、なんかちょっとカッコいい、惚れてしまう、そういう魅力があります。なんか魔訶不思議な魅力ですよね。

                            

一度、ヴァイオリンソナタでじっくり演奏を聴いてみたい感じがします。

すごい気になっていたヴァイオリン奏者だったのでした。(笑)

                                 

川本嘉子ブラームス室内楽のチェロと言ったら、もう向山佳絵子さんしか思いつかないですね。若手じゃ無理です。(笑)まさに川本さんの親友パートナーで、ずっとこのシリーズでチェロ、そして川本さんの相棒として重責を果たしてきました。まさにこのシリーズの顔と言っていいのではないでしょうか?

                          

自分の記憶ではレギュラー出演だったような気がします。チェロで若手というのは、曲に応じてそういうこともあったかもですが、基本は、毎年のレギュラー出演だったと思います。まさにこのシリーズでなくてはならない存在だったと思います。

                  

今回の座席は、向山さんのチェロの音色が飛んでくる方向に座っていたので、いつもより低弦のゾリゾリ感が凄く迫力がありました。

                             

演目は、ブラームスの弦楽四重奏の第1番、第2番、第3番。

まさにこれぞブラームスという重厚な旋律で、ホールの響きも素晴らしく、生演奏ならではの迫力サウンドだったので、もう圧倒されました。

                    

11年間、毎年名演で、優劣つけれませんが、優秀の美ということで、この最後の公演をベストとして推挙しても許されるのではないでしょうか。

                                 

誰も文句は言わないと思います。

               

それだけ素晴らしい公演でした。

                    

来年から東京春祭でブラームス室内楽を聴けないと思うと、なんかさみしいな~とは思います。

              

この11年間の歴史、歩みは、川本嘉子さんの演奏家人生の中で、揺るぎない金字塔、キャリアとして永遠に語り継がれていくことでしょう。そしてもちろん、これだけのチャンスを与えてくれた春祭実行委員長の鈴木会長には、まさに感謝しかありませんね。

                     

                                 

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(c)東京・春・音楽祭 Facebook


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東京・春・音楽祭2024  ブラームスの室内楽 XI

                      

2024年4月13日 [土] 18:00開演

東京文化会館 小ホール

                  

ヴァイオリン:周防亮介、小川響子

ヴィオラ:川本嘉子

チェロ:向山佳絵子

                  

ブラームス:

弦楽四重奏曲 第1番 ハ短調 op.51-1 

弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 op.51-2 

弦楽四重奏曲 第3番 変ロ長調 op.67

               

                      

                    

                         

                                    




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